2025年11月、相鉄バスが一部路線で完全キャッシュレスの実証運行を開始します。これを皮切りに、全国のバス事業者で「現金お断り」の動きが加速中です。
なぜ今、バス業界でキャッシュレス化が進んでいるのか? そして「高齢者」と「外国人観光客」、どちらを優先すべきなのか。この記事では、バスのキャッシュレス化が避けられない理由とその裏側をわかりやすく解説します。
◆ バス業界の“生存戦略”としてのキャッシュレス化
バス業界は今、深刻な運転手不足と経営難という二重苦に直面しています。すでに全国で約2割の路線が減便、あるいは維持が困難な状況です。
国土交通省の試算によると、全国のバスが完全キャッシュレス化すれば、年間約86.3億円のコスト削減が可能になるといいます。この浮いた資金を運転手の待遇改善や路線維持に再投資することで、地域交通の維持につながるのです。
キャッシュレス化は単なる利便性の向上ではなく、「バス路線を守るための経営改革」なのです。
また、両替作業や運賃箱の現金回収が不要になることで、運転手の負担軽減にもつながります。結果としてバスの遅延も減り、利用者満足度の向上が期待できます。
◆ 高齢者には“新たな壁”、外国人観光客には朗報
一方で、すべての乗客にとってキャッシュレス化が歓迎されるわけではありません。特にデジタル機器に不慣れな高齢者にとっては、新たなハードルとなる可能性があります。
国土交通省の実証実験では、「スマホの電池切れ」や「カードの故障」、「家族が端末を持たせていない」といった声が多く寄せられました。こうした事情から、“交通弱者”を生む懸念が指摘されています。
しかし、海外から訪れる観光客にとっては朗報です。クレジットカードのタッチ決済が普及すれば、小銭や現金を使う手間が省け、スムーズに公共交通を利用できるようになります。これはインバウンド拡大にも大きく寄与するでしょう。
◆ 現金派への“橋渡し”も進む
全国のバス事業者は、高齢者や現金派の利用者を取り残さないために、さまざまな取り組みを始めています。
- 茨城交通:交通系ICカード、クレジットカード、QRコード決済に対応
- 神奈川中央交通:現金しか持たない乗客に「後払いカード」を渡す実証実験を実施
- 福島交通:「バスの乗り方講習会」や「買い物ツアー」を通じてキャッシュレス利用を定着
このように、事業者は「誰も取り残さないキャッシュレス化」を目指しています。現金を完全に排除するのではなく、利用者の理解と習慣化を促す「緩やかな移行」が進められています。
◆ バスの“現金お断り”は冷たい選別ではない
バスのキャッシュレス化は、決して高齢者を切り捨てるものではありません。むしろ、未来の公共交通を守るための避けられない選択です。
現金を扱うための人件費・時間・リスクが減ることで、運転手や路線維持への投資が可能になり、結果的にすべての人の“移動の権利”を守ることにつながります。
本当の課題は、「キャッシュレスか現金か」ではなく、
“どうすればすべての利用者が不安なく使える仕組みを作れるか”という点にあります。
国や自治体、交通事業者が連携し、高齢者や外国人観光客にも優しいキャッシュレス環境を整えていくことが、これからの日本に求められています。
◆ まとめ:キャッシュレス化は“未来の日本交通”の第一歩
キャッシュレス化はバス業界のコスト削減や効率化だけでなく、地域交通の維持や観光立国としての成長にもつながる重要な一歩です。
現金文化が根強い日本ですが、これからは「使い方を教える」「選択肢を残す」ことが大切になります。
キャッシュレスと人の温かみを両立させた新しい公共交通の形――それが、これからの日本の未来を支える鍵になるでしょう。

